ヒッチコックに見出されたアルトマンは、ハリウッドで最も作りたい映画だけを作り続けた監督である。今回紹介する「ザ・プレイヤー」は、映画愛やヒッチコックへの尊敬を込める一方で、ハリウッドを痛烈に皮肉った映画となっている。
ロープ
「ロープ」はアルフレッド・ヒッチコック監督によるミステリー映画。とある部屋で起こる殺人事件をワンシチュエーションかつ長回し(カットの継ぎ目を分かりにくく処理)で描く。古き良きミステリー映画となったヒッチコックの代表作の1つである。
ザ・プレイヤー
「ザ・プレイヤー」はロバート・アルトマン監督によるミステリー/ブラック・コメディ映画。冒頭は8分の長回しで、ハリウッド映画製作会社で働く人たち、企画を持ち込むライターたち等を映している。その中で、ヒッチコックの「ロープ」の長回しを賞賛するセリフも登場する。主人公は映画製作会社の副社長(ティム・ロビンス)で、年間5万本もの映画の企画が持ち込まれるが、その内ゴーサインを出せるのは年10本。企画が認められずティム・ロビンスを恨んでいる誰かから、脅迫状まがいのポストカードが届く。その犯人としてある脚本家に目星をつけて会いに行くのだが、口論となり、殺してしまう。更には、脅迫状は終わらず、犯人は別にいることが判明する(それが誰かは最後まで明かされない)というストーリーだ。
「ザ・プレイヤー」は、ストーリーとカメラワークにはヒッチコックへのオマージュと尊敬の念を感じる作りだ。その一方で、ミステリー的なストーリーを下敷きとしながらも、ハリウッドを皮肉るブラック・コメディでもある。ハリウッドのヒット映画に必要な要素は、サスペンス、笑い、バイオレンス、希望、セックス、ハッピーエンドだと言う。作中で登場する企画も、脚本家が持ち込んだ段階ではバッドエンドでスター無しという映画が、完成披露ではブルース・ウィリスとジュリア・ロバーツのハッピーエンドで描かれるところは笑える。そして本作自身もその要素を全て盛り込んでいる。殺人を犯したティム・ロビンスは、立件されず、被害者のガールフレンドと幸せに暮らすハッピーエンドで幕を閉じるのである。観客はそれに違和感を持つとともに、ロバート・アルトマンの皮肉っぷりにニヤリとせずには居られないだろう。
ラストシーンも面白い。ティム・ロビンスに電話がかかっきて、「ザ・プレイヤー」というタイトルで企画の持ち込みがある。持ち込んだのはティム・ロビンスを脅していた犯人であり、サスペンスの帝王ヒッチコックのようであり、それを受け継ぐロバート・アルトマンのようでもある。