大人にはイロイロあるが、子供にだってイロイロある。
大人は子供を守っているが、大人は子供に救われることもある。
そんな大人と子供が過ごす夏のストーリーの2作品をご紹介します。
菊次郎の夏
「菊次郎の夏」は北野武監督による、チンピラの菊次郎と近所の子供である正男の物語。
正男は離れて暮らす母親に会いに行く途中で、菊次郎と出会い、一緒に旅に出る。競輪場に行ったり、ホテルで泳いだり、変質者に出くわしたり、ヒッチハイクしたり、バス停で夜を明かしたり…。そして母親の家にたどり着くも、そこには新しい家族がいたのだ。
正男はショックで涙を流すが、菊次郎は「違う家だったみたいだな」と、あからさまな嘘をついて慰める。なんと美しい嘘だろう。
そして、正男のためだったはずの旅はいつしか菊次郎のためとなって、ラストではタイトル通り「菊次郎の夏」だったということが分かる。爽やかな気分になる。
ヤンヤン 夏の想い出
「ヤンヤン 夏の想い出」はエドワード・ヤン監督による少年ヤンヤンの家族の群像劇。
父親は仕事に葛藤し、過去の恋愛にどこか諦観の念を持っている。母親は祖母の介護の他、色々なことに疲れたのか新興宗教に逃げていく。姉は恋と友情に振り回され青春特有の暗い気持ちを抱えている。
そんな非常に作り込まれた物語に対して、ヤンヤンは子供らしい自由闊達さをもって過ごし、物語の傍観者のようにもなっている。
しかし、ラストで祖母が死に、葬式でヤンヤンは作文を読む。この作文が胸を打つとともに、ヤンヤンこそが監督の代弁者であることに気付く。本作がエドワード・ヤンの遺作となってしまったことは残念でならない。