商業的ハリウッド批判をきっかけにしながら物語を進める2作品を紹介します。と言っても物語の方向性は真逆で、「シェフ~」は外側に広がるポジティブなコメディ、「バートン・フィンク」は内側に鬱屈しながら自己を見つめるヒューマンドラマです。
シェフ 三ツ星フードトラック始めました
「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」はジョン・ファヴロー監督によるコメディ映画。監督の「アイアンマン」から「シェフ~」への流れによる商業的ハリウッド批判は前回記事をご覧ください。
「シェフ~」では商業的ハリウッド批判=レストランオーナー批判で示して物語をスタートさせるが、その後は、ポジティブなコメディに仕上がっている。家族や仲間たちに助けられながら、自らの力量を信じて、フードトラックで大成功を収めていくサクセスストーリーだ。それはそのまま監督自身の体験・思いでもあるのではないかと感じさせる。これと対をなす映画として次に「バートン・フィンク」について解説したい。
バートン・フィンク
「バートン・フィンク」はコーエン兄弟によるヒューマンドラマ、サスペンス映画。今ではヒットメーカーであるコーエン兄弟を代表する初期の作品である。本作でカンヌ国際映画祭でパルムドール、監督賞、男優賞を独占するとともに、映画批評家に絶賛されえたことによって、コーエン兄弟を世界的に知らしめることとなった。
新進気鋭の劇作家のバートン・フィンクは、ハリウッド大手スタジオから脚本執筆の依頼を受ける。意気込むバートン・フィンクの話など聞こうともせず、スタジオの社長はB級レスリング映画の脚本を書けという。ホテルに籠もり執筆に取り掛かるが、全く進まないバートン・フィンク。隣室のチャーリー、憧れの脚本家WPメイヒュー、秘書のオードリーと出会う。執筆の進まないバートン・フィンクが癒やしを求めオードリーと一夜を共にし、朝起きるとそこにはオードリーの死体が。そしてチャーリーは連続殺人犯と判明し、と物語は急展開していくというのがあらすじだ。
前半はコメディタッチな商業的ハリウッド批判だが、後半はサスペンス要素とメタファーの連続により物語が重厚になっていく。本作が高い評価を得ているのは、映画の後半部分が現実と虚構が入り乱れたような作りであり、様々な解釈・深読みを試みてしまうことにあると思われる。暑さと湿度で壁紙が剥がれるこのホテルは実在するのか、バートン・フィンクの心を映しているのか?隣室のチャーリーは実在するのか、バートン・フィンクの心の一面なのか?チャーリーがバートン・フィンクに預けた箱の中身は何か、オードリーの首?バートン・フィンクの精神?ホテルでいつも眺めていた砂浜と女性の絵は、ラストでは実在してバートン・フィンクがそこに座っている、これは現実なのか?虚構なのか?と謎は尽きない。ネタバレを調べてしまう前に是非一度ご覧いただきたい。