映画をつくることは、無駄を削ぎ落としていくこと。それを強く感じる映画をご紹介します。
3-4×10月
「3-4×10月」は北野武監督によるヒューマンドラマ映画。タイトルに意味は無いことは有名だが、英語タイトルの「Boiling Point」つまり沸点というのはキタノ映画を表していると思う。さっきまで下らないことで笑っていた人たちに、次のシーンでは突然の暴力と死が訪れるのだ。そしてもう1つの特徴は省略(引き算)である。無駄な説明を省き、最小限のカットでの映画作りは、テンポの良さを感じさせるとともに観客に想像する余地を与える。
恐怖分子
「恐怖分子」はエドワード・ヤン監督によるヒューマンドラマ映画。台湾の朝に銃声が響き、警察のサイレンが鳴るところから映画は始まる。警察の手入れから逃げた少女シューアンと、その場面の写真を撮ったシャオチェン、出世を画策する医師のリーチョンと、その妻であり小説家であるイーフェンを巡る群像劇。登場人物それぞれが抱える闇がまさに恐怖分子であり、それらは観客である私たちの中にも潜むことを気付かさせてくれるだろう。
恐怖分子を観たときに思ったのはキタノ映画それも3-4×10月に似ているということだった。実際には恐怖分子は1986年、3-4×10月は1990年なので逆なのだが。キタノ映画の4年前に台湾でこのような傑作が生み出されたことは記憶しておくべきことだろう。当時、北野武は恐怖分子を、エドワード・ヤンを観ていただろうか?
恐怖分子もまた、突発的な暴力が起こり、省略による想像の連続である。銃声や銃を持つ手は見えても顔は見えない。リーチョンはよく洗面所で手を洗いながら妻イーフェンと会話するが顔は見えない。見えている場面でもその表情からは気持ちが読み取れない。そして突然に怒りと暴力が起こる。3-4×10月でも主役の柳憂怜は飄々としていて表情から気持ちが分からない場面も多かった。また、シューアンがホテルでピンチに陥った際も、ナイフを出すシーンは省略されて、突然起こる暴力(ナイフらしきもので刺す)とその後に血を拭って仕舞うシーンがある。台詞は少なく、最小限のシーンで見せて説明していく。
そしてクライマックスとラストシーン。両方の映画ともに、素晴らしい緊張感とスピード感をもってクライマックスを迎える。そして突然に訪れるラストシーンは、これはどういう意味だったのだろうかと観客に想像させることを強要する。観客それぞれの解釈とそれに対する思いが沸き起こることだろう。それこそが両作の狙いなのかもしれない。